C.E.75 1 Feb

Scene デーベライナー・艦橋〜MSデッキ

「距離700、レッド17、マーク22デルタに高速接近する熱源を確認。熱紋照合……インフィニットジャスティス」

───ジャスティス?! …アスラン…?

作戦室にひとり篭っていたキラは予想もしない機体の接近を耳にした。
確認のために艦橋に直接繋がるドアを開ける。オペレータの傍まで近づくと、同時に「機体識別信号を確認」の声が響く。オペレータが視線を落とす画面を見れば確かにジャスティスのようだ。そのパイロットから通信回線オープンを要求するコールが届く。
「通信入りました」
キラは搭乗者をまだ疑っていた。パーソナライズされた機体に乗るのはアスラン以外にいないはずなのに。
予告のない接近にやはり不審気な様子のアーサー・トラインに、キラは努めて冷静に「お願いします」といった。緊張した面持ちでアーサーはインカムをとる。
「こちらデーベライナー艦長アーサー・トラインです」
『…こちらはオーブ連合首長国特派大使、アスラン・ザラ』
通信用カメラから映しだされたその姿はまちがいなく彼だ。ヘルメットの影でわずかに表情が隠れているが、キラが見間違うはずもない。
『着艦許可されたし』
そして、その声も。

モビルスーツデッキに機体の着艦を知らせるアラート音が鳴り響いた。
自機の調整をしていたシンは予定にない突然の音に驚き、一瞬だけ身体を震わせた。すぐに操作を中断し、外の様子を窺うためにコックピットをせり上がらせてバッシュから顔を出す。
格納庫に直結するモビルスーツ専用ハッチのエアロックから姿を現したのは、見覚えのある真紅の機体。
「まさか?」
そんなの予定にあっただろうか、と考えながらシンはコックピットから飛び出した。まもなくしてその機体、ジャスティスから降りてきたのは、数日前の進宙式で顔を見たばかりのアスラン・ザラだった。
「アスラン! …なんで!」
「シン…」
驚きを隠さないまま大声で叫ぶと、こちらを向いたアスランがその名をつぶやいた。
「なんでアンタがここに…」
いいかけてシンははっとする。
「なんだよ、それ」
「………………」
それにアスランは何も応えなかった。そして、シンの問いかける視線を軽く流して、「ヤマト隊長は?」と訊ねた。
「ブリッジ。…それ、なに。なんであんたがそれ着てんの」
アスランが身につけていたパイロットスーツは、見慣れない色をしていた。だが間違いのないことは───。
「それ、ザフトのじゃんか」
「……しばらく…いや、当分のあいだ…といったほうがいいかもしれないが。ヤマト隊に配属されることになった」
「だから、なんで!」
異例づくめのあるこの艦にそれ以上の異例があっても不思議はない、などといった納得がそこにあるはずもなかった。他国の人間がザフトに出向してきた前例はキラだけということはないが、それでも隊長職にというのは異例中の異例だ。さらにまた、同じ国のオーブから“副官”と思しきカラーリングのパイロットスーツを着込んだ男を目の前に見れば、どんな理由を聞かされようと理不尽さが先にたつ。
「……そのまえに、隊長の配属受領がいるがな。だから、おまえの相手はそのあとだ」
アスランは詰め寄るシンの肩を押した。その反動でロッカー室の方向へと去っていく。
自分からの問いを後回しにされたことにシンは憤慨したが、その気持ちの奥には別の不満が沸き上がりつつあったことに、シン自身まだ気がついていなかった。