Scene ヤラファス島〜オノゴロ島・移動ヘリ
三十分にも満たないことではあるが、オーブ本島とオノゴロ島のあいだを移動するヘリの中がアスランの休息時間になりつつあった。本当はそんな隙間にも仕事で考えなくてはならないこともあるのだが、そこまで根を詰めるといつか倒れてしまう。自身の体力と精神力にはそれなりに自信はあったが、今は自分も重要な位置にある人間であることも判ってはいるので、これも仕事のうち、と休息は決めたルールで取るように心がけている。
今はその移動のあいまに、キラから受け取った月のバックアップデータを整理している。それは懐かしい思い出を拾いあげる作業でもあるので自然と心が和んだ。当時の自分の拙いプログラムや課題に使った設計書、主に勉強に使ったり作ったりしたデータがファイルの数でいえば多かったが、その容量の半分を占めているのは写真データのほうだった。
そして、そのデータのまたほとんどは、キラと一緒に写った自分のものか、キラの写真だ。
ごまかしようもなく、この頃から自分はキラを好きだったのだと思う。
アスランは、それを心の奥深くに押し隠し見ないふりをするようになったきっかけをはっきりと覚えている。
第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦に突入する少しまえのこと、メンデルで過ごしていたときにふいに訪れた、あの衝動を受け入れたあとのことだった。
あの頃、アスランは父親との決別に打ちのめされ、キラはメンデルで知った自分の出生の意味に混乱していた。とくにキラは何日も浮上することなく、誰もがかわるがわる彼を支えたが、最終的にはずっとアスランの傍にいて、その手を求めてきた。
思えばあのときは誰もがつらい状態にあって、カガリとラクスもその父親を亡くしたばかりであったし、彼女らに甘え続けることはキラにとって申し訳ない気持ちがあったのだと思う。それに、自分に対しては子供の頃の「甘え慣れた相手」でもあっただろうから、アスランはそのキラの選択を当然のように思っていた。
そうして頼られることによって自制して、キラがもっと寄りかかることができるように、と自身も無理をしていたのかもしれない。
キラがたびたび夢にうなされ真夜中に飛び起きるため、アスランはキラを同じベッドに誘って眠ることが多くなっていた。その日も何ということもなく同じベッドにもぐりこんだが、眠りにつくまでのあいだ話題にしたことが、よくなかった。
アスランがプラントへいき、離ればなれになってからお互いにどれほど辛く寂しい思いをしていたかの確認などを、してしまったから。
その切なさがついに限界にきて、気がつけば互いの肌で熱を分け合うありさまとなっていた。
「まもなくです」
随員の声がかかり、アスランは現実へ引きもどされた。端末をアタッシェケースにしまい、気持ちを切り替える。
あの衝動はそのあとのキラのひとことで、二度と訪れることはなかった。
───でたらめばかり、いって。
キラは昔からそうだ。自分を混乱させて、振り回して───。
けれど、今はもうはっきりと、自分自身の気持ちなど判っている。
否定をすることなど、できるはずのない。キラを想う気持ちを。