C.E.75 2 Feb

Scene アルテラ・ザフト基地

シンがコロニー内部にへ侵入すると、すぐ前方からもうもうと立ち昇る爆炎を認めた。上空からの視野でそこが軍事基地と判る。シンは迷いなくその方向へバッシュを翔けた。ホバリング推進システムで地上を滑りながらそのあとに続くドムトルーパーたちからは、それぞれに舌打つ声が聞こえる。
『ハイマニューバか。十機はいるな』
『数では負けるが、機体はこっちが上だね。さて、肝心の腕はどうかな』
マーズ・シメオンの声に呑気ともとれるような返事をヘルベルト・ラインハルトが返す。
『コロニーの中だ。できるだけ爆散させるんじゃないよ、野郎ども』
ヒルダ・ハーケンの指摘にシンは少し緊張する。初陣はやはりコロニー内部での戦闘だった。あのときは敵機を爆散させはしなかったものの(正確にはできなかった、だが)、コロニーに穴を開けさせることになった。今回は年代もののコロニーときている。アーモリーと違って脆い部分はあるに違いない。派手な攻撃はできる限り控えなければならなかった。
───ヤマト隊長みたいに先読みできりゃ、そりゃ、いいけどな。
射撃精度はそれなりに自信をもつものの、機関部や燃料系を避けきれるかといえば、相手もよく動く機体だけに完璧には無理だろう。バッシュとドムトルーパーはそれぞれにビームソードとビームサーベルを抜き放ち、基地に展開しているジンハイマニューバ2型の群れに接近する。彼らに気がついたジンはやはり腰部に備えた実剣をマニピュレータに装備してこちらへ向かってきた。
先行するシンが先頭のジンのメインカメラをソードで跳ね飛ばす。その息も吐かせぬスピードに怯むかに見えたジンはしかし、勇敢ながらビームカービンを装備し直し、バッシュに向かって撃ちかけてきた。
「───っ…! くそっ、やっぱりこいつら見境なしかよ?!」
バッシュの背後は宇宙港とターミナルビルで、そこには局員が多数避難せず残っている。おそらくキラとアスランもまだそこにいるだろう。シールドで背後を護りながら、さがるジンを追いかけてカービンを持つ腕も切り伏せた。続けざま腰部に狙いを定めて薙ぎ払う。機関部は避けたものの爆発を引き起こし、繊細なコロニーの大地が揺れた。
警衛の小隊長から、基地周縁部の住人は避難していると連絡を受けてはいるが、万が一に備えて一般市民は一時的にでもコロニーから退避させたほうがいいかもしれない。
「アスラン!」
指示を得るため上官に呼びかける。
『少し待て!!』
たったひとこと怒鳴り返すその背後からは、派手な銃撃音が聞こえていた。
「そっちも修羅場かよ! 何やってんですか!!」
続けて襲いくるジンの攻撃を躱しながら叫ぶと、うるさい!という一喝がもどってくる。いいさ、勝手にやってやる、と降下部隊を呼びだしてみると、すでにキラの指示が回っていてコロニー住人の誘導が開始されているとのことだった。
「先にいえ、ちくしょう!」
文句をいいながら三機めのジンを掌部ビームで粉砕する。戦闘から気を散らしている場合ではない。バッシュのほうが機能実力ともに上をいってはいるが、操作慣れを感じさせる複数機を相手に、わずかに苦戦する瞬間があった。
「なんでこいつら、コーディネイターなんだよっ!!」
ジンを操る搭乗者はいずれもコーディネイターだ。ナチュラルにここまでジンを自在に動かすことはできない。強化人間という疑いもあるかもしれないが、ハイマニューバ2型は操縦者を選ぶ機体だ。マニュアル通りを完璧にこなすだけの強化人間に、この練度を表すのは難しい。
『ちっ、知らないよ! テロリストはここの住人って話みたいだけどね?!』
ヒルダたちもすぐそれには気がついていたようだ。手を抜くことなくジェットストリームアタックを展開して、複数の敵機をまとめて薙ぎ倒していった。

コロニー外壁に甚大な被害は与えることなくすんだが、ジン数機は大破させてしまい、基地周縁一帯はまさに戦場の跡となった。
戦闘が終わると待機していた降下部隊が駆けつけ、生存するパイロットの救出と捕縛を始めた。一方のザフト基地は、モビルスーツ格納庫とおぼしきあたりが最初の爆発でめちゃくちゃにされており、敵の手にならなかったモビルスーツは戦闘に使われた機体同様、見るも無惨な姿を晒している。誘爆によるコロニーの破壊を恐れてか、武器弾薬倉庫は破壊を免れそのまま残っているように見えた。
───基地のひとたちは……。
シンは心配になって部隊の回線を開き、交信を聞いて状況を確かめた。
銃撃戦をおこなっていたらしい向こうでも一段落したのか、アスランが半壊した基地への突入指示を出していた。それから一分もしないうちに、今度は基地周縁を片づけていた小隊長から緊急の報告が入る。微かに声が上擦って、震えていた。

『…敵機……奪われたジンに搭乗していたのは───全員、アルテラ基地のザフト兵です!』

『───なに…?』
応えたアスランの声も震えていた。
それを聞いていたシンは───シンも、震えた。
大破した数機のジン、パイロットは助からなかっただろう。
───あれに乗っていたのは───。
「……そ、………そん、な……」
両の手をわなわなとさせて、全方位モニターを埋め尽くしているジンの残骸を見つめる。
シンはことばを失い、聴覚もその機能を拒否して、そのあと続いたアスランの指示も耳に入らなかった。