C.E.74 2 Jul

Scene ヤマト家・ダイニング

「今は個人的事情を考えている場合じゃない!」と婚約問題を棚上げにして強制終了したゆうべ。まんじりともしない気持ちでアスランは目覚めたが、うじうじと考え続けていられる状況ではないことも事実ではあった。とりあえず今日はさっさと仕事に入り、昨日のオフの分を取りもどすのだと決意する。アスランはそれだけで完璧に気持ちを切り替えた。
カリダがつくった朝食をありがたくいただき、食後のコーヒーを飲みながらニュースを見ているとキラが起きてきた。
「…おはようキラ」
「おはよ。早いね」
カリダもキッチンからおはようと声をかけてきて、「キラはいつもどおりなの?」と訊いてくる。キラは、いつもどおり?と思っていると、目の前のアスランが立ち上がった。
「じゃあおれは先にいくなキラ」
「えっ。あ…いってらっしゃい」
昨日の落ち込みのかけらも見せない様子で、いってきますと笑顔を残してアスランは玄関を出ていった。今日の出勤時間は同じだったはずなのにな、などと覚めきらない頭でぼーっと考えていると、カリダが声をかけながら朝食を運んできた。
「あなたたち、最近あまり一緒にいないのね」
あまりどころか、ここしばらくは家の中でもほぼすれ違いだった。昨日はアスランが休暇をとっていたこともあって多少はゆっくり顔を合わせたが、その彼が妙な話を持ち込むからこちらはつい説教までしてしまうし、あまりいい思いはしなかった。
停戦から今日までも、アスランは本当によく働いていると思うのに、どうやらこのあとまだ忙しさは加速するようでキラはがっかりしている。
「時間なんて無理矢理つくらないとだめなのよ?」
まるで、一緒にいないとダメじゃない、と叱られているようなニュアンスだ。
「べつに子供の頃と同じってわけでもないんだから。そんないつでも一緒にいないよ」
「あらそう? 仲がいいならかまわないじゃない、好きなだけ一緒にいれば」

アスランから一時間半ほど遅れてキラも出かけた。
───いってくれれば、ぼくだって早起きして一緒に出ることもできたのに。
さきほどのカリダのひとことはかなり利いた。好きなだけ一緒にいようと心に決めて傍にいるつもりだったのに、気がつけばこんな状態だ。
そろそろキラも、自分の次の道が見えてきている。自分が動き始めれば、またいくらかアスランとの距離ができるだろう。まえのように心がすれ違うようなことには、もうぜったいにしないつもりではあるけれども、アスランはアスランで勝手に動き回り、縛りつけておくこともできないのだから、ぜったいの保証など実はどこにもない。
───どうしろっていうんだよ…もう…。
キラの心に、微かな苛立ちと焦りが漸く生まれはじめていた。