C.E.74 5 Jun

Scene ヤマト家・キラの部屋

夕食を終えてからアスランはキラの部屋を訪れた。
アスランだけ不在の夕食が長らく続き、落ちついたかと思えば今度はキラの遅い帰宅が続いたりしていた。今日はようやくすれ違わずに家族四人(いまだにこの括りはアスランにとって気恥ずかしい)の食卓を囲むことができた。
相変わらず片づけも手伝わずにさっさと自室にもどったキラに、多少小言のひとつもいうつもりだったのだが、部屋を覗いてみれば持ち帰りの仕事をしているという。とはいっても、軍から書類やデータを持ち出せるはずもないので、仕事に必要なデータ資料を揃えているだけだ。すぐに終わるようなことをわざわざ持ち帰るのはキラにはめずらしい。
ここしばらくのすれ違いが嫌だったから、とキラはいった。そんなことをいわれれば小言も引っ込むし、邪魔になるからと部屋を辞することも気が引けて、いつもキラの部屋ではそうするようにベッドに腰をかけた。

アスランが部屋に落ちつくと、キラが楽しげな様子で話題を出した。
「もうすぐラクスがくるね」
アスランからとくにそれを伝えたことはなかったが、カガリかラクス本人から聞いていたのだろう。いつのまにか彼は知っていて、数日前からアスランの顔を見ればその話を持ち出してきた。滞在中のオフ日程もアスランが告げるまでもなくすでに自身のオフを合わせていて、少しばかり面白くない気分だった。
そのうえに今、ラクスが滞在するアスハ家別邸でそのあいだキラも一緒に過ごすといわれ、思わず大きな声が出てしまう。
「なんで?!」
「え…、ラクスがそうしてっていうから。寂しいんじゃないかな」
そのあいだおれが寂しいだろう、と心のなかでぼやいている間に「アスランも一緒にいこう」とキラが誘った。
「いやおれは……遠慮する」
「せっかくラクスがくるのに?」

───ラクスラクスってこいつは…。

「その一週間のあいだ、おれと彼女は仕事でほぼ顔をつきあわせたままになるんだ。オフの時間までおれの顔を見たくないだろう、ラクスが」
「そんなことないよ」
「……仕事の話しか出なくなる。おれはいかないほうがいい」
アスランは適当ないいわけを見繕ってキラの提案を固辞した。ラクスに対して他意はないつもりだったが、ここへきて疲労も溜まり不機嫌が加速しているようだ。
「そんなこといってオフ日まで揃えたくせに…」
「それはシンとルナマリアにつきあうことになってるんだ」
「なにそれ、聞いてないんだけど!」
「今いったからいいだろ」
何をこんなにくだらないことで、と自覚があるだけに、もうこれ以上はまずいとアスランは腰をあげた。このままけんかになっても虚しい。
しかし、去り際の背中にキラが追い打ちをかけた。
「…なんで怒ってんのアスラン」
「怒ってないべつに!」

閉じた部屋のドアを見つめながら、「怒ってるじゃないか…」とキラは口の中でつぶやいた。