C.E.74 3 Apr

Scene オーブ軍本部・アスランの執務室

アスランに充てがわれた部屋は所属が決定するまでの仮といいながら、ふつうに高官用執務室のようだった。工廠に詰めることの多い今のキラには、その側にある事務室風の部屋が充てられている。仮とはいえ差別のあることにずるいなぁなどと少し子供っぽいことをキラは思った。
デスクの背後は大きめの窓、隣には別室もある。国土の狭いオーブにあっては、たとえば大西洋連邦ほどの広さ充分なオフィスは望めないが、それでもゆとりのあるほうといえる。おそらく正式な辞令が降りても、アスランは引き続きこの部屋を使うことになるのだろう。これ幸いと、すでにさまざまな資料や書類を積みはじめている。
アスランは自分のデスクにつき、キラにはドアを入って右手に据えてある三人掛けのソファを勧めたが、キラは従わない。アスランにデスクまでついてきて行儀わるくその机に腰掛けた。

キラがカガリのところで得てきた情報をひととおり聞いたアスランは深いため息をついた。だが、さして沈欝な表情はしていない。前向きな内容として捉えているようだ。
「エターナルの返還要請はまぁ順当として…。ラクスの地位は普通に最高評議会議員じゃだめなのか?…平和大使ってなんだ、それ?」
ラクス帰還にあたってプラント国内での地位をそのように提示されているとのことだ。
「それ、実はラクスからの申し出だって」
聞けば打診は昨日のことだというのに、ラクスはもうプラントで動くための心算を何か進めているようだった。
「評議会の枠組みとはべつのシステムをつくってプラントの流れを見守ろうとしてるんじゃないのかな。あるいは多少のコントロールとか?」
ラクスの計算を素直に予想してみると、アスランは苦笑をこぼした。
「さすがに彼女を議長にするほどプラントも莫迦ではないし、ただの議員であればその発言力もたかがしれてるから、ということかな」
プラントへもどるのであれば権力を持てなければ意味がない。カリスマ歌姫としての人気だけではやはり政治は動かせないものだ。
「プラントの政治機構はまだ日が浅いうえに合理性を追及する国だから、まったくといっていいほど複雑なところがない。それだけに最高評議会と議長のパワーバランスがわるいというのは事実だが。評議会とはべつの政治圧力をかけるとなると…だいぶ混乱するぞ、プラントは」
「…判っててやるんだろうけどね」
アスランは難しい顔になって、うん、と頷いた。
「それで…。それはもう決定なのか?」
「そう。出発は20日」
「え、今月?」
もう二週間ほどしかない。
「平和条約の調整役を任されるから、急ぐんだって」
そうか、とつぶやいて、アスランはラクスがプラントへ渡ったあとのことをもうあれこれと考えはじめている。真面目に思考するその横顔を見て、キラの心の中でさきほどから感じていた違和感がまたもや甦る。
アスランの沈思を邪魔することなく黙ったままで、違和感の元を探ろうとその顔を見つめていたら、気がついたアスランが「どうした、キラ?」と訊ねてきた。
どうもしないと答え、キラは諦めてアスランの執務室を辞した。